2011年1月11日火曜日

1月11日の記録から

■ボイスレコーダー
二杯目のお茶をすすめられたとき、それまであまり口を開かなかった菅原生活安全課課長が、「お母さん」と話しかけてきました。
「ボイスメモ、なんか、お持ちだったんですか、息子さん」
「あの、ボイスレコーダーが……実は、最初はなかったんですが、あとから牛込警察署の落し物係のほうに駅員さんが届けられて」
「そのボイスレコーダー、まだお持ちですか?」
「もちろん持っています。息子の遺品なので」
「あの、暴行、相互暴行の事実も捜査しているので、そういったことでもし役立つような内容があればですね、活用させていただければと思いまして」
私はとうとう本題が出てきたと思いました。
「もし、そのテープ、うちのほうでデータ―を取らせていただくことはできないですか?」
「データで取らせていただいて……」
「ええ」
「息子が言っていたとおり、たとえば階段にビデオカメラがないのであれば、立証することは無理なんじゃないですか。
階段を上っていたら、突然、腕を掴まれ、階段の下に叩き落とされ、頭を床に打ちつけられたということを、西口交番のHさんという警察官に、息子は訴えております。
が、それを立証できないんであれば、ボイスレコーダーをお貸ししても意味もないんではないですか? 
それとも、息子が打ちつけられているのは、どうもこのノートから見るかぎりでは、一番下のようなので、違う角度から探していただけないでしょうか」
「それは、いま、あの捜査してやっていますので」
「あの、お願いします。そうしないと、息子も浮かばれないと思いますので」
「録音をちょっと参考にということはしていただけない、提出していただけないということでよろしいんですか」
「いえ、あの息子が受けた暴行を立証する可能性があるのならば」
「僕が、私、なに入っているかわからないんで」
「そうですね」
「ええ、どういう話なのかっていうの、まったく知らないものですから」
「ご存知ない?」
「ええ、うちはぜんぜん聞いてないんで」
「あ、どういう事件だったかということはご存知……」
「いや、あのそのテープ、ボイスレコーダーの内容っていうのは、どういうのが入っているか知らないものですから」
「そうですか。でも、牛込警察署のほうではご存知かと思いますが」
「でも……」

しばらく、菅原課長と私の問答をみていた黄海副署長が、間に入ってきました。
「牛込署でも聞いていないんです。個人のプライバシーなんで」
その後も、ボイスレコーダーの提出を求められましたが、私はボイスレコーダーそのものの提出は拒否しました。
息子のボイスレコーダーは旧型のもので、ロック機能がついていません。
他意はなくても、うっかり消去してしまう可能性が大きく、実際、私も操作する際は、消さないようにボタンの位置に気を使っていました。
そして、なによりこのボイスレコーダーは息子の遺品です。形見のひとつです。無防備に「はい、そうですか」とお渡しする心境にはなれなかったのです。
ひととおりの質問を終え、次に場所を移し、新宿駅の現場を案内してもらうことになりました。私はその前に、息子が事情聴取を受けていた部屋を見せてほしい、と、お願いしました。
部屋の印象は、ガランとした空間の中に、机をはさんでパイプ椅子が向き合い、窓には鉄格子が掛けられていて、まるで牢獄のように見えました。
この部屋で、息子が社会的影響を気にしていた発言をしています。パイプ椅子を並べ、横たわる直前の会話です。

原田 任意同行なので、明日私が出勤することは可能なんですか?
刑事 ん? いまの段階ではまだ話がまとまってないからですね。
刑事 あのー、会社のほうは行かれて結構なんですけれど、ただほら、被害届を出すっていうことになれば……。
原田 そのあとでいいですか?
刑事 そのあと?
原田 ええ。
刑事 そしたらですね、わかりました。いま、あのうちのほうで扱っている制服の警官がいますからね、そちらのほうが扱いますのでね、そちらのほうに話してもらって。
原田 はい。
刑事 後日、まあ出頭してくださいってことで、そのときに被害届を作りますっていうなら、それでもかまわないと思います。
原田 それで、なんらかの不利は? 私のほうに被るっていう可能性は?
刑事 不利っていうのは、ないでしょうね。
原田 じゃあ、私がいまここで休養を取って、出勤して、そのあと被害届のほうの作成に移行することで、なんら社会生活に支障をきたさないという認識ですか?
刑事 それはー、申し訳ないんだけれども、それを扱う警察官のほうのやっぱり手続きの関係とか。
原田 ええ、ええ。
刑事 そちらのほうでちょっと、お話を聞いてもらうっていうかたちになります。
原田 それでこう、なんだろう。まぁ、話は悪いですけど、ニュースとかで見る、ゴシップとかで見るような、ドラマみたいな、職場に知らされたりみたいな……。
刑事 ないですね。
原田 あの、実家のそばに……。
刑事 我々のほうはしない。そんなことは(笑)、ハハハハハ。
原田 じゃあ、
刑事 (笑いが止まらない)ンフフフフフ……。
原田 あの、なんの気兼ねなく、出勤して臨めばいい、と?
刑事 あぁ、だと思いますよ、はい。我々のほうで会社に連絡を取ったりだとか、そういうことはしない。 
原田 (さえぎって)なんで、ここで、身柄を拘束されるのか?
刑事 私がさきほどお話したとおり(笑)、最初、あなたのほうが、痴漢したんですっていうことで、訴えてきたんで、やはりあなたのほうの話も聴かなきゃいけないからということなんです。
原田 ええ、ええ。
刑事 そのとおりでございます。
原田 (力なく)かしこまりました。

息子にとってみれば、日常が変わってしまうのではないかという畏れがありました。 しかし、その懸念を表したとき、相手の刑事は大笑いしたのです。

■決意
部屋を出て、黄海副署長と菅原生活安全課課長とともに、2階のロビーまで戻りました。事情聴取から解放された息子も、同じように2階のロビーにやって来ま した。同行した刑事は〈ここで、横になってください〉と長椅子を示しました。そして、〈もし、ご自分で目が覚めて、いかれるんでしたら大丈夫ですから〉と 言いました。息子は刑事の名を確認しました。生活安全課のYという名前でした。

原田 ちょっと、あの杞憂かも知れないんですけれど、社会生活に支障をきたすような、まあ、ドキュメンタリーみたいなものは、世の中いろいろあっているような気がするんですけれど、
冤罪みたいなもので、苦しめられ続けるみたいな、そういう支障はありうる可能性は?
刑事 いや、だって、被害届出すわけでしょ?
原田 出しますね。
刑事 えぇ(笑)、被害届出すんであれば、別にねぇ、あとは要は双方が話がつかなければ、当然、裁判というかたちに。
原田 ええ。
刑事 ええ。
原田 こっちからあっちに起こしていくということで、わかりました。
刑事 とりあえずは、(後日出頭の)日程のほうを調整させていただいて。
原田 先方の方も被害届を出すってことですか?
刑事 まあ、そうです。そうですね。
原田 じゃあ、私も出して。わかりました。
刑事 そのときには、扱った者、担当の者に聞いていただければと思います。
原田 そうですね。なにか新宿駅構内の写真とかないんですか?
刑事 それはいま、分析している最中です。
原田 分析ですか。わかりました。ほかには目撃者とかは?
刑事 そうですね。当然そうなりますね。
原田 私の周りにいた人とか?
刑事 出てくればいいんですけどねー。新宿駅、一日何十万人も来るわけですからねぇ。
原田 ビデオカメラは?
刑事 一番いいのは、やはりビデオカメラがそうですよ。そういう意味では駅員さんにも話を伺うべきですよ。
原田 現場にはいなかったのに?
刑事 フフッ(笑)、当然駅員さんにも話を伺います。

目撃者とビデオカメラ。息子は身の潔白を証明するために、最後まで正常な捜査をお願いしていました。

原田 あの、本当に私だけでなくて、生活安全課にその3人が呼ばれたんですか?
刑事 ええ、まだいますよ。手続き中ですよ。
原田 こっちに来て、ずっと私に対した質問のような形をとっていた?
刑事 ええ、そのとおりです。
原田 間違いなく?
刑事 間違いなく。アルコール検知もしておりますし。
原田 私は本当、駅員の方に、本当に一方的に……。
刑事 それはやっぱりね、駅員さん呼び出して捜査しないといけないですね。
原田 傷を負いました。恐怖をおぼえました。本当に。

その後、再出頭の段取りの話になりました。息子は〈弁護士の方に依頼する場合には、そのタイミングに合わせるって可能ですか?〉とたずねていました。

刑事 現時点の段階では、まだ刑事事件になってないわけですから。これからですから。
原田 同時出願という形になるんですか? 被害届は?
刑事 時間は違ってもお互いに、ということです。
原田 お互いに? それだと先ほどの話だと、私があって、みたいな、原因とそのあとみたいな感じになる?
刑事 そうでしょうねぇ。
原田 そうでしょうね!?
刑事 それは、双方の話がどういうふうになるか。
原田 それは……そうでしょうね。

Y刑事はふたたび〈目が覚めたら、帰っていただいて結構ですから〉と言い残し、エレベーターに乗って去っていきました。「上へ参ります」というエレベーターの音声案内が響きました。
ドアの開閉する音、足音、風の音、さまざま音が行き混じるロビーで、息子は疲弊しきった身体を長椅子に横たえました――。

長椅子を目にしていた私は、ふっと時間を遡り、その光景を見ているような気持ちがしました。どんなにつらかったことだろう、悔しかっただろう、お腹も空いていただろう。
眠っている息子を抱きかかえ、家に連れて帰ってあげたかった。無念が胸にこみあげました。 

「……ええ、だからちょっと、見てる人も、ちょっといないもんですからねぇ」
菅原課長の言葉に、我に返りました。当時、新宿警察署の1階の出入りは自由で、ドアが開閉するたびに冷たい風が吹き込んできていました。
吹き抜けの手すりの真ん前に置かれた長椅子で、熟睡できようはずもありません。
ボイスレコーダーには息子の咳の音、そして泣き声も残されていました。
午前5時40分の少し前、高い靴音が響き、息子は起き上がりました。
その後、トイレで顔を洗ったのでしょうか。水流音が何度も繰り返され、ポツリ、ポツリと落ちる水滴に重ねるように、
「よし、いこう」
小さくつぶやきしました。
そして、フーというため息が聴こえたかと思うと、息子は。嗚咽しはじめました。
す ると、ガシャンという音ともに倒れ込んだ様子で、同じトイレ内にいた人がなにか言葉をかけてきました。息子は〈大丈夫です〉と答えました。〈なにか保護か なんかされたの?〉と相手はたずねてきます。〈大丈夫です〉と繰り返して息子はトイレを出て、その足で新宿警察署をあとにしました。長椅子のうえで、目覚 めてから5分ぐらいの間の出来事です。
警察署の前の大きな道路を走りぬける、車の音が飛び込んでくるように録音されています。

息子は少し歩き、タクシーに乗り込みました。息子の声はこう告げました。
〈新宿駅へ〉――。

■新宿駅
新宿警察署を出て、菅原課長の案内で、新宿駅に着きました。

新宿駅に着いたとき、 息子はどんな気持ちだったたのだろう、どんなにつらかったことだろう、悔しかったことだろう。
時間を遡ることができるなら、死に向かう息子を引き止めたかった。息子の無念が胸にこみあげました。
「息子さんは、大学生とこの通路ですれ違ったんです」
菅原課長の思いがけない言葉に、我に返りました。
息子の残したボイスレコーダーには、何度も、取調べに当たった3人の刑事から、
「女性の方が階段で、あなたに、お腹を触られたと被害を訴えている」
「女性は階段で、真正面から来たので、あなたの顔を見ている」 などと言われて、明け方まで取り調べを受けていた様子が残されていました。
その時、新宿警察署にたいして、信頼してはいけないという不信感が、確信に変わったのです。


これからも目撃者探しを続けていきますので、目撃された方、何か情報をお持ちの方、どうぞお知らせください。


●署名TV
原田信助の受けた暴行被害について、
十分な捜査を実施し,犯人を起訴することを求める署名



●署名TV
原田信助の受けた暴行被害について、
十分な捜査を実施し,犯人を起訴することを求める署名

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